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国民総幸福量とは、ブータンの開発政策の根幹である概念であり、国民総生産や国内総生産といった物質的な発展の度合いの評価とは異なる、精神面での豊かさの度合いを評価する尺度のことです。
世界中の経済学者は、人々が幸福になるためには物質的な発展が重要だと主張してきました。しかし、ブータンの第三代国王であるジグミ・ドルジ・ウォンチュックは、1971年のブータンが国連に加盟した際のスピーチにおいて、発展のゴールは「国民の繁栄と幸福」であると主張しました。この考えはその次の第四代国王のジグミ・シンゲ・ウォンチュックにおいても継承され、彼は国の発展の度合いを国民総幸福量で測ることを提唱しました。そして、ブータンにおいては国民総生産や国内総生産よりもこの国民総幸福量こそが重要であると強調しました。これは、豊かであることは必ずしも幸せではないが、幸せであると豊かだと感じるようになるという考えに基づいていて、ブータンの1人当たりの国民総所得が1,920米ドルであるにも関わらず、国民の約97%が「幸せ」と回答したという実態がまさにそれを体現していると言えます。仏教が人々の生活に深く根付き、ヒマラヤ山脈といった広大な自然を有することから、このような考えが広く支持されたと考えられます。
幸福というと、概念的な意味合いが強く具体的なものが想像つきにくいかもしれませんが、ブータンの国民総幸福量には、持続可能で公平な社会経済開発・自然環境の保護・有形、無形文化財の保護・良い統治といった4つの柱が提示されており、ブータンの精神的伝統や美学が具体的に表わされています。これに加え更に、9つの分野にわたって「家族は互いに助け合っているか」「睡眠時間」「植林したか」「医療機関までの距離」など、72もの項目が策定されています。その結果、ブータン以外の国でもこの国民総幸福量という考えを取り入れようとする動きが出てきました。国民総幸福量という考えのもと行われているブータンの政策において、医療費は無料であり、教育費も制服代などを除いて無料となっています。また、国土の60%以上の森林面積を保つことが決められています。地域の開発プランについても、自分たちの住んでいる地域の開発については自分たちで優先事項を取り決め、それを中央政府に提案するという形を取っています。